施工の現場から見るハンガリーパビリオンの魅力
大阪・関西万博のハンガリーパビリオン。その施工に関わった身として感じたのは、単なる建築物ではなく、文化そのものを体現した「空間作品」だったということです。エントランスや階段壁には、視覚的に楽しめる装飾がちりばめられ、来場者が一歩踏み入れた瞬間から“ハンガリー”を体感できるよう工夫が凝らされています。
鮮やかな壁面に描かれたグラフィックや情報は、ハンガリー語と日本語の二言語で紹介されており、文化の橋渡しとしての役割も担っています。私たち施工チームは、こうしたビジュアルと意味が伝わるよう、照明の当て方や導線の見え方にも細心の注意を払いました。建物そのものがメッセージを持っている空間に関われたことは、大きな誇りです。
キャラクターの正体は伝統陶器「ミシュカジャグ」
パビリオン内でひときわ目を引くのが、壁にずらりと並ぶ小さな人形たち。その愛らしいフォルムとカラフルな装いから、来場者が足を止めて写真を撮る姿も多く見られます。彼らの正体は、ハンガリーの伝統的な陶器「ミシュカジャグ(Miska jug)」をモチーフにしたキャラクターたちです。
「ミシュカ」とは、ハンガリー語で「ミハーイ(Mihály)」という男性名の愛称。日本語で言えば「ミッちゃん」や「ヒロくん」のような、親しみを込めた呼び名です。この陶器は19世紀ごろ、ハンガリーの庶民の間で広く使われ、軍人や村人の姿をした擬人化デザインが特徴。壁に並ぶキャラクターたちは、その伝統を現代風にアレンジし、万博の来場者にも笑顔と興味を届けてくれます。
壁に描かれた文化のストーリーとハンガリー語の世界
ハンガリーパビリオンを歩くと、階段や廊下の壁面には鮮やかなグラフィックとともに、さまざまな文化的キーワードが描かれています。たとえば、「灰色牛(GREY CATTLE)」「マンガリッツァ豚(MANGALICA PIG)」「ルービックキューブ(RUBIK’S CUBE)」など、ハンガリーの象徴ともいえる存在が紹介されています。これらはすべて、ハンガリー語・日本語・英語の3か国語で表記され、言葉とビジュアルの両面から文化理解を深められるよう設計されています。
また、ブダペスト国会議事堂の壮麗な建築も壁面に描かれており、「建築=文化」として紹介されている点も印象的です。視覚的なデザインだけでなく、来場者が“読む”ことで知識を深められる構成は、まさに学びと遊びを融合させた空間。壁そのものが一種の教科書であり、文化のガイド役を担っているのです。
日本との文化的共通点―名前に込めた“親しみ”の感覚
ハンガリーの「ミシュカ」という名前に込められた親しみの感覚は、日本の文化にもよく似ています。たとえば「たけちゃん」や「けんくん」といったように、私たちも名前に愛称をつけて、身近さや親密さを表現します。この“名前に宿る感情”というのは、国境を超えて通じ合える文化的な感性のひとつです。
さらに、陶器に人格を与える「ミシュカジャグ」のような発想は、日本の“つくも神”や“擬人化文化”にも通じます。ものに命を見出し、長く使うことを尊ぶ心。その精神性は、単なる物質的な価値を超えた“文化の深さ”を物語っています。
ミシュカのキャラクターに触れることで、訪れた人々はどこか懐かしさや親しみを覚え、日本とハンガリーの思いがけない共通点に気づくことができるのです。
文化と建築の融合体験―見て、登って、感じる万博の空間演出
このハンガリーパビリオンが特別なのは、展示物や映像だけでなく、建物そのものが“文化を語る媒体”になっている点です。階段を上るたびに出会う色彩豊かな壁面やイラストは、ただの装飾ではありません。来場者の視線の高さや動線を意識して設計されており、空間を移動しながら自然とハンガリーの文化に触れられるようデザインされています。
とくに注目すべきは、建物内の随所に配された「ミシュカ」たちの存在。列を成して並ぶその姿は、まるで文化の守り人のようでもあり、遊び心を交えながらも深い歴史背景を感じさせます。建築と展示が一体となったこのパビリオンは、まさに“歩いて味わう文化体験”。施工の視点から見ても、非常に精密かつ情緒豊かな空間演出がなされていると感じました。
まとめ
大阪・関西万博のハンガリーパビリオンは、ハンガリーの文化や歴史を、視覚と体感の両面から楽しめる魅力的な空間です。施工に携わった者として、特に印象に残ったのは、壁や階段に施されたグラフィックがただの装飾にとどまらず、来場者を物語の中へと導く「案内人」のような存在だったことです。
ユニークなキャラクター「ミシュカ」は、19世紀から続く伝統陶器「ミシュカジャグ」を現代的に表現したもので、その名前に込められた親しみの感覚は、日本の愛称文化とも深く共鳴します。灰色牛やマンガリッツァ豚、ルービックキューブなど、壁に描かれた要素の一つひとつがハンガリーを語る素材となっており、見る人の興味と学びを誘います。
建築・展示・言葉が融合したこのパビリオンでは、階段を上るごとに文化の層が重なり、知らなかった世界に触れる楽しさが広がります。文化を“感じさせる建築”に出会える稀有な場所として、ぜひ多くの人に体験してほしい空間です。